「京都マンガ・アニメ学会」設立にあたって
京都コンピュータ学院・京都情報大学院大学 統括理事長の長谷川亘でございます。日ごろは本学の研究・教育活動に深いご理解をいただき,誠にありがとうございます。京都コンピュータ学院は今年,創立50周年を,京都情報大学院大学は創立10周年を迎えました。これもひとえに,皆様のご指導ご鞭撻のおかげです。この場をお借りし,感謝申しあげます。
さて,本学は,本日・9月7日に開幕いたしました「京都国際マンガ・アニメフェア2013」の共催団体として,昨年以上にコンテンツ市場の発展に貢献しようと努力を続けているところでございます。そして,私どもは,京まふを,より洗練された「日本文化の発信地」とするべく,多数の皆様のご賛同とご協力をいただきまして,国際的な日本のマンガ・アニメ人材ネットワークづくりを主な目的とし,ここに「京都マンガ・アニメ学会」の設立を宣言いたします。
現代では,日本のマンガは老若男女,国内外を問わず人気が高く,また,あらゆる種類の物語を網羅しています。日本国内の社会現象を引き起こすような人気アニメ作品や,海外でも高い評価を受けるようなアニメ作品も続々と生まれ,日本のアニメは,日本を代表する文化のひとつとして,広く海外に認知されるまでに至っています。
日本のマンガやアニメを海外のものと比較してみると,明らかなのは,それらの根底に我が国独特の文化的影響が強く伺える点です。マンガとアニメは従来別分野のものとして区分けが成されてきましたが,比較文化の視座でこれらを概観したときに共通して言えること,また,海外との差異を強調することができる点はいくつか散見されます。例えば,日本的な「間」の有無もそのひとつだと言えるでしょう。
一方,コンピュータ技術の進化発展は,マンガ・アニメに革命的な質的変化をもたらしました。CGの技術により,日本のマンガ・アニメ作品特有の人物の動きや距離感等に「間」を持たせる表現を,より繊細に実現することが可能になりました。また,情報通信技術の量的拡大によって,世界中の人々が日本のマンガ・アニメ作品に触れる機会が爆発的に増加しました。それらにより,日本マンガ・アニメの独自の感性,芸術性,技術力の評価が,海外でさらに高まり,日本の文化と日本語への関心が向上するなど,マンガ・アニメを起点として海外の人々から日本が注目されるという現象を生み出しています。
他方,コンテンツ輸出によるカルチャーおよびライフスタイルの伝達・浸透は文化創造産業のみならず,あらゆる産業に新たな可能性をもたらすことは疑いありません。日本政府が推進するクール・ジャパン政策では,ポップカルチャーや伝統文化の輸出は産業を牽引するエンジンに留まらず,観光立国の原動力としても期待されています。言うまでもなく,マンガ・アニメは日本文化の国外伝達の媒介として,大きな役割を果たしてきています。先般フランスと米国で開催されたジャパン・エキスポに,私も参加してまいりましたが,いずれも盛況で,日本のマンガ・アニメのパワーと,海外での人気を目の当たりにしました。近い将来には,この京まふと,ジャパン・エキスポが手を携えていくことも可能でしょう。
ただ,近年,非正規なコンテンツ流通ルートが主にインターネット上に開かれ,海外向けのビジネスが成り立ちにくくなっているのも事実です。それに加え,日本国内は少子化および長引く景気低迷の影響もあって,ヒット作が次から次へと生まれるといった黄金時代は終わり,マンガ・アニメ産業はターニングポイントを迎えているといえます。このような中,本日設立した本学会が担う役割は多いと感じています。
本学会は,マンガ・アニメに関わる制作技術,人材教育,ビジネス戦略,マーケティング,国際化,産業振興,地域振興などを含めた様々なテーマを,総合的に研究・実践する場として,より多くの分野の人々の交流の場としていきたいと考えます。未来を創出するような,知が集結する場としての,「新しい学」を創出するとともに,学識者・研究者だけではなく,クリエイター・業界団体・企業も含め,愛好家・消費者も広く参加しやすい,従来にはなかった仕組みをつくり,日本のマンガ・アニメ文化のさらなる発展に貢献したいとの志を抱いております。
それでは次に,「京都マンガ・アニメ学会」が計画する具体的な取り組みについて少しご説明いたします。まずは教育の要素を含めた各種イベントの開催です。イベントとしては,マンガ・アニメの将来を担う人材の裾野を広げるため,また会員のスキルアップや新技術の情報収集を図るための様々な講習会やセミナー,それにアニメビジネスに関する講演会,あるいはアニメ上映会,原画展などが挙げられるでしょう。学生,研究者,これからクリエイターを目指す人,あるいは既にクリエイターとして活躍されている業界の方など,それぞれのニーズに合ったものを,新しい技術の共有の場としての役割も考えながら,企画,準備していきたいと思います。
続いてマーケティングです。マンガ・アニメ業界が抱える問題点の一つは,視聴環境の技術革新に伴ったマーケティングリサーチの困難化であります。本学会では,協力会員から収集する視聴・購買データをまとめ,解析することにより視聴者のニーズに応えられる作品制作につなげたいと考えています。さらに,視聴履歴に基づいた商品の視聴や購入を,ファンに薦めるといった新たなビジネスも生まれるのではないでしょうか。
本学会は,マンガ・アニメのマーケットの情報を収集して分析する場ともなるように,可能な限り広い層のアニメファン,特に中高生を含む低年齢層も協力会員として参加していただこうと考えております。このため,ファン層に魅力的な,例えば,マンガ・アニメ関連企業の皆様に提供していただいた新商品やイベントの情報を,協力会員にお伝えすることが必要不可欠となります。他方,協力会員に対してマンガ・アニメ作品についてのアンケート調査などを本学会が実施し,関連企業の皆様にお伝えする。このようなことを継続して実施したいと考えております。
さて,本学会は京都を活動基盤にしますが,京都ならではのメリットは多くあります。本学会で主催する業界人交流会はその一つです。業界の多くの皆様は,関東でご活躍中だと思いますが,日本で最も人気のある学会開催地といえば京都であり,学会大会の会場を京都にすると,出席率が飛躍的に上がるといわれています。京都に来るだけでテンションが上がり,質の良い議論になりやすいともいわれています。ここ京都で行われる交流会は,今までにないビジネスを生み出すと信じております。
私どもは日本文化のさらなる振興を期するためにも,日本が世界をリードしているこの分野において,日本文化の中心であるこの京都から,マンガとアニメの両方に横断する本学会を立ち上げることは,極めて有意義であると確信しています。世界をリードする日本マンガ・アニメのアカデミックな研究およびビジネス的な実践が,京都から新たに展開することを祈念しつつ,多方面からのご参加を願ってやみません。
京都情報大学院大学
統括理事長 長谷川亘